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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)5764号 判決

原告 三光信用金庫

右代表者代表理事 渡辺長九郎

右訴訟代理人弁護士 村中清市

被告 吉永茂

右訴訟代理人弁護士 大城豊

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

証人小川仙次、同黒岩八十吉の証言を綜合すると、黒岩は昭和三一年八月六日、原告信用金庫に被告の印鑑及び印鑑証明を持参し、原告との間に被告を連帯保証人とする継続的手形取引契約を締結し、被告の記名捺印を代行することによりその約定書(甲第一号証)を作成したことが認められる。

そこで、被告が黒岩に対し、右の連帯保証人となる代理権を与えたか否かについて判断するに、これを認むるに足る証拠はない、却つて、証人高井義春、同黒岩勝次郎、同吉永房江の証言及び被告本人尋問の結果を綜合すると被告が黒岩に対して印鑑及び印鑑証明を預けた趣旨は、被告主張のとおりであることが認められる。証人黒岩八十吉、同黒岩道子の証言中右認定に反する部分は容易に措信し難い。かりに、右黒岩八十吾の証言が、真実であるとしても、被告が黒岩に対して与えた代理権は金八〇万円の定額の貸付について連帯保証することにとどまり、継続的手形取引契約について連帯保証することでなかつたことは明らかである。そして、前記のとおり成立を認められる甲第一号証によれば、原告と黒岩の間に締結された継続的手形取引契約は、原告の認定によりいかなる極度額をも設定し得るものであるから、その連帯保証人は、場合によつては、主債務者と経済的運命を共にする危険を負担するものであつて、一回かぎりの定額の貸付についての連帯保証とはその本質を異にする。従つて、黒岩が被告の印鑑と印鑑証明を持参したとしても、かかる重要な事項について被告を代理する権限ありと信ずべき相当の理由があるとは認められない。かかる場合には、正規の金融機関としては、被告本人の来店を求めるとか、あるいは、少くとも電話で連絡する等の方法により、本人の意思を確めるのが当然であつて、その注意を怠つたのは明らかに原告の過失である。従つて本件においては表見代理も成立する余地はない。

よつて原告の請求は全部失当であるから棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺均)

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